《 マタイによる福音書 2章13~15節 》
以前、難民を支援する団体によるクリスマス降誕劇を見る機会がありました。ボランティアたちによる手づくり感のあふれるページェントで、特にその団体の長が演じるヨセフが、マリアとロバ役と一緒に旅をする場面が妙に印象に残っています。
実は、聖書には、幼子イエスも難民生活を送ったということが出てきます。クリスマスにまつわる箇所を読み進めると、ヨセフとマリアは生まれたばかりの幼子を連れて、ヘロデの手を逃れるため、エジプトへと夜のうちに逃げる場面が記されていて(マタイ2:13~15)、難を逃れ、国を追われる家族の姿がそこにあります。このエジプトへの逃避の記事は、聖書の中では比較的地味な箇所かもしれませんが、実は絵画の世界では、よく取り上げられる題材であるようです。調べてみると多くの画家が描いていて、中には、エジプトのスフィンクスと共に描かれているマリアと幼子イエス、ヨセフというものもあります。
ヘンリー・オッサワ・タナー(1859~1937年)という画家について知る機会がありました。タナーは、国際的な評価を得た、最初のアフリカ系アメリカ人の画家であると言われ、父親が牧師であったことからその影響を受け、聖書の話をテーマにした多く絵を描いています。例えば、イエスとニコデモ(ヨハネによる福音書3:1~21)を描いた作品を見ると、夜の薄明りの中でニコデモに話しかけるイエスは、面長の顔に黒い髭を生やしています。彼の描くイエス像はアフリカ系の人物の姿に見えなくもありません。
タナーは、「エジプトへの逃避」を題材とした絵をいくつも描いていて、この聖書の箇所に対する彼の関心の高さを伺わせます。それらの作品には、彼自身が感受していた自由を求めての逃避が表現されているといいます。暗い夜道を、ロバに乗るマリアに抱えられた幼子イエスと、そしてヨセフが案内人の灯りに照らされて歩く油絵には、アフリカ系アメリカ人たちの南から北への移住が重ね合わされているとのこと。公民権運動の指導者キング牧師が「わたしには夢がある」と語った演説よりも40年以上遡った当時の状況において、彼はあえてエジプトへの逃避を題材にしてその絵を描きました。それは、彼の感性が、聖書をそのように読み取ったということでしょう。
それらのことを思う時、とかく聖書を、聖書の世界だけのこととして終わらせてしまうことの多い中で、改めて聖書との向き合い方を意識させられるように思います。社会の状況が揺れ動き、穏やかでない年始を迎える中、私たちも、聖書の物語が今日の状況の中で立ち上がって来ることを、この年も受け止めたいと思います。
参考:-blue- 青く映る (タナーの作品が鑑賞できます)→こちら(別サイト)
(2020年1月12日 野の花の集い ショートメッセージ)